哲学生の記録。

大学時代のレポート文章を載せます。

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

【倫理学概論】脳死からの臓器移植

1.どの状態を死とするか 人が生きている、死んでいるとはどのような状態なのか。一般に、生は死と相対するものとして考えられるが、実際には死の瞬間と言える一点はない。それは、完全な身体の機能停止に向かって徐々に進行していく不可逆的な現象であり、…

【倫理学概論】対話でつくる国際正義

1.不可欠、だが困難な、国際正義の定立 「グローバル化により異なった文化的背景をもつ人間の接触機会が増大したいま、文化横断的な正義や地球的な共存倫理を定立することなしに、他者との良好な関係を維持することは不可能なのである」(1)と、押村高は…

【倫理学概論】マジョリティの道徳的悪(中島義道『悪について』より)

1.カント倫理学は適法行為のうちで道徳的に善い行為を問題とするが、人間は非適法行為を実現する 中島義道は、カント倫理学のなかで、適法的ではあるが道徳的に善くはない領域の「悪」についての言及に注目する。中島によれば「カントの関心は、義務に適っ…

【ゼミ】自同性の一線 〜レヴィナス「逃走論」より〜

1.前近代の西洋哲学は存在の自足せる安逸を前提としており、自我から出られない 西洋哲学は、自我から出られない全体性にすべてを包み込む危険をはらんでいると、レヴィナスは指摘する。というのも、平和と均衡を理想としている西洋哲学は、存在の自足せる…

【ゼミ】レヴィナス『逃走論』Ⅲの発表原稿

Ⅲ章では、欲求の構造を説明する。 心理学的な欲求の説明 欲求→満足の追求 人間存在の制約としての欠如(不充足)のために他のものを求める 欲求を全体に拡散させる不快感も、この存在の有限性をあらわすものである。 満足の快楽=自然な充溢の回復 ↑ 欲求の不…

【ゼミ】レヴィナス『逃走論』Ⅰ前半の発表原稿

段落1 存在の観念に対する伝統的哲学の反抗 →人間的自由と存在という事実が不和だったから。 伝統的哲学においては、人間は世界と対立することはあっても、人間自身と対立することはない。主体の内部での自我と非自我を対峙させるような、自我の統一性を破壊…

【ゼミ】『方法序説』第四部の発表原稿

『方法序説』第四部(p.53 5行目~) 神と魂の存在は、身体や天体や地球の存在よりも確かである。 夢に現れる実際とは違う身体・天体・地球も、他の思考と同様に生き生きと鮮明であり、夢の思考が他よりも偽であると分かるのは神がいるためだとしか考えられな…

【ゼミ】『方法序説』第二部前半の発表原稿

p.20「たくさんの部品を寄せ集めて作り、いろいろな親方の手を通ってきた作品は、多くの場合、一人だけで苦労して仕上げた作品ほどの完成度が見られない」ことについて考える。 ・完成度(低) 古い壁を生かしながら修復につとめた建物 村落が大都市に発展し…

【ゼミ】『方法序説』はデカルトの思考方法を示す

1.『方法序説』は、その考え方によって古典的名著となる 『方法序説』は『広辞苑』によると、1637年に刊行されたデカルトの主著であり、「スコラ学をしりぞけ、明晰判明を基準として一切を方法的懐疑に付し、自我の存在を確立し、近世哲学の礎となった」(…

大学のレポートをブログにまとめることについて

どうなんでしょうか。 大学のレポートをブログにまとめることって。 著作権は本人にあるので問題はないそうです。 そもそも書いているのが学生時代の本人なのですから、稚拙な表現、怪しい読解、偏った主張なども見られます。 しかしまぁ、ネット上の情報だ…

【社会倫理学】「人間」の動機 -シュトラウス・コジェーヴ論争からー

1.クセノフォンの『ヒエロン』をめぐって 名誉と労働の概念を手掛かりとして、シュトラウスとコジェーヴの争点を検討する。 レオ・シュトラウスは、クセノフォンの『ヒエロン』という対話篇を非常に独創的に解釈してみせることによって、現代にも通じる道…

【社会倫理学】注意深い古典読解の意義

1.読書の精神 このレポートでは、注意深い古典読解の意義について述べたいと思うが、古典読解の前に、まず読書とは何であるかを考えてみたい。 読書とは、字の如くすれば、本を読むことである。三木清は、「もし読書の精神ということがいえるなら、読書の…

【西洋文化史概説】アウトサイダーのスティグマ ―なぜ彼らは迫害されたのか―

0.はじめに 中世ヨーロッパでは、魔女や異端者として、非合理的に迫害された人たちがいた。しかし彼らが迫害されたのには、当時としては正当だと思われた理由があったのであり、そこにはなんらかの社会的、もしくは民衆心理的な動機があったに違いない。そ…

【西洋文化史概説】ミシェル・フーコー『狂気の歴史』の概要と書評

≪選択テーマ≫ 文化史の発展、あるいはそれに貢献した諸研究の書評。 ≪書名≫ ミシェル・フーコー著、田村俶訳、『狂気の歴史―古典主義時代における』新潮社、1975年。 ≪概要と構成≫ 1.『狂気の歴史』とは何か 『狂気の歴史』の主張とフーコーがこれを著した…

【東洋美術史】北宋と南宋の山水画

1.北宋の山水画 〜大地を正面から描く〜 北宋と南宋の山水画を比較すると、北宋の山水画には山や大地が主題として描かれていると言える。そしてその特徴は、正面性の強い構図だ。たとえば范寛の「谿山行旅図」では、かなり存在感を持った山が画面の中央に…

【東洋美術史】范寛の「谿山行旅図」について

范寛の「谿山行旅図」についてレポートする。この作品は北宋時代のもので、絹本墨画淡彩である。大きさは、縦206.3cm、横103.3cmと、なかなか大きい。 1.モチーフ まずぱっと見て何ともインパクトがあるのが、画面中央に堂々と描かれている重量感のある岩…

【臨床心理学実習】ロールシャッハレポート

テスト参加者は、22歳の大学生(女性)R.N.であった。検査者は21歳の大学生(女性)であり、テスト参加者との関係は、大学の学生寮で同じ階に住んでいる友人である。 反応総数Rは30なので、被験者は比較的検査に協力的で関心を持ち、検査者に対してあまり防…

【博物館実習】柳宗悦・民藝の美

1.民藝の性質・実用的で普通品 柳宗悦は、民衆的な工藝という意味で「民藝」という言葉をつくった。それは一般の人々が日常生活の中で使う器の中に美を見出すという思想だった。民藝の性質として柳は、実用的であることと普通品であることの二つを挙げてい…

【心理実験】記憶 ―自動再生法による系列位置効果―

目的 自由再生法の課題において、単語の呈示順序と再生率の関係を明らかにする。自由再生とは、相互に無関連な単語リストを覚え、できるだけ多くの単語を、単語の呈示順序に関係なく、思い出したものから順に再生することである。記憶には、呈示されたリスト…

【心理実験】対人行動  ―パーソナル・スペース―

目的 パーソナル・スペース(個人空間)とは、人間の身体のまわりをとりまく、見えない境界を持つ他人に侵入されたくない領域のことである。これは、我々はあまり他者と接近しすぎると不快や不安が高まり、他者を避けたり、他者との間にある程度の距離をとろ…

【心理実験】鏡映描写課題による両側性転移の検討

序論 タイプライターを打つ場合や自動車を運転する場合など、目、指、腕、脚など身体各部分の運動が一つのまとまりをもったものを運動技能と呼ぶ。したがって運動技能とは、感覚系と運動系との状況に即した密接な協応を必要とする行動であり、この協応関係が…

【哲学基礎演習】ソクラテスが死を恐れない理由

p.28(三) 哲学者は死を恐れない。死とは魂と肉体の分離であり、哲学者は魂そのものになること、すなわち、死ぬことの練習をしている者であるのだから 哲学者は死に臨んで恐れを抱くことなく、あの世で最大の善を得る希望に燃える。 哲学者は死ぬことと死ん…

【哲学基礎演習】『方法序説』第二部 デカルトが探求した方法の主たる規則

「たくさんの部品を寄せ集めて作り、いろいろな親方の手を通ってきた作品は、多くの場合、一人だけで苦労して作り上げた作品ほどの完成度が見られない」(p.20) 例) 一人の建築家が請け負って作りあげた建物と、古い壁を生かしながら修復につとめた建物 村…

【哲学基礎演習】ティム・クレイン『心は機械で作れるか』のまとめ

第1章「心はどのようにしてものを表象できるのか」 心的表象、あるものが別のものを表象するとはどういうことなのか。 中世・ルネサンス「生物的世界像」 ↓ 17C科学革命「機械的世界像」 ものが様々なふるまいをするのは、各々のものが自然法則にしたがって…

【哲学基礎演習】エラスムスの紹介

1.エラスムスとは まず、エラスムスというのがどのような人であったかというと、ルターはエラスムスのことを「彼はうなぎのような人間で、キリスト以外に彼をつかまえられる者はいない」と評しています。とらえ難い人であったようです。 彼は司祭の資格を…

【哲学基礎演習】上田閑照『私とは何か』の要旨と感想

1.自我の自意識から自覚への転換には、一種の目覚めを誘発する衝撃がある まず「自覚と自意識」の節について要旨をまとめる。 「我は我なり」と言いつつ「我」が開かれる場合の「我」を自己、「我」が閉ざされる場合の「我」を自我と呼ぶことにした。自己…

【哲学基礎演習】神と言葉について

1.ヨハネ福音書1章1節「初めに言があった」 講義資料より、新約聖書の「ヨハネ福音書」1章1節には「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は、初めに神と共にあった。万物は言によって成った。成ったもので、言によらずに成ったも…