哲学生の記録。

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【臨床心理学実習】ロールシャッハレポート

テスト参加者は、22歳の大学生(女性)R.N.であった。検査者は21歳の大学生(女性)であり、テスト参加者との関係は、大学の学生寮で同じ階に住んでいる友人である。

反応総数Rは30なので、被験者は比較的検査に協力的で関心を持ち、検査者に対してあまり防衛的ではないと考えられる。反応拒否Rej.は見られなかった。

∑F+%は96.2%と高い値を示していることから、被験者はプロットの形態的特徴をしっかりとつかんでいる。観念活動が活発で想像力に富み、情緒的には安定し、極端な抑鬱や軽躁状態にはなく、生活に対しては意欲的、積極的で努力を惜しまない人であるといえる。

サイコグラムを見ると、F値は12とほどほどに高く、しかし高すぎたり、M反応や∑Cの値が少な過ぎはしないところから、杓子定規であったり、内的な空虚さや感受性の制限はないことがわかる。M:∑Cは3:7となっており、サイコグラムでは右側に偏りが見られる外拡的体験型である。これは、プロットに運動や奥行きを感じるというよりは、色彩や濃淡などのプロットの客観的属性を用いて反応しているということであり、R.N.は外的現実に依存して行動する傾向のある人格であると推察される。外的現実を自己流に再構成することは少なく、それらを受け入れ、それに自分を適合させる傾向がある。外拡的体験型の特徴としては、比較的紋切り型の知性、模倣的な能力、不安定な情緒性、活発な運動性があげられる。初発反応時間の平均が、無色彩図版では11.8秒、色彩図版では15秒と色彩図版のほうが長めになっていることからは色彩ショックの影響があると思われ、色彩図版のなかでもカード提示順に初発反応時間が短くなっていることは色彩への慣れを表しているのだろう。二色以上の色彩を使った初めての図版である第Ⅷ図版において、カード提示直後に「カラフル」だという感想をもらしていることからも、被験者がプロットにおいて運動よりも色彩に注目するタイプであることがわかる。

しかし、(FM+m):(Fc+c+C’)は3:1となっており、これは、被験者自身によっては完全に認知されていないような潜在的な内向的傾向があることを示している。内向的傾向というのは、より分化した知能、創造的な能力、豊かな内面的生活、安定した情緒性や運動性、現実に対する順応の弱さなどを特徴とする。M:∑Cが外拡的傾向を示したのにものであったのに対し、潜在的には内向的傾向が示されるということは、R.N.の内部においては、これらの傾向の間に矛盾と葛藤が存在していると思われる。Ⅷ+Ⅸ+Ⅹ/Rが36.7%であったことは、外的な環境からの情緒刺激に対する行動的あるいは観念的な反応性の高さをあらわしており、この結果はM<∑Cの外拡的傾向と矛盾しない。

次に、知能的側面を評価する。形態質(∑F+%)の高さからは、現実吟味能力や、判断の公共性あるいは適切さを持っていることがうかがわれる。M反応の量はそれほど多くないが少な過ぎるわけではなく、反応の形態水準が悪くないことからも、平均あるいはそれ以上の知能の持ち主であることは確かだ。W反応の56.7%という値も、知能が高い可能性を示唆している。内容の多様性の点では、A%が40%であり、紋切り型の思考しかできない人ではないことがわかる。Content Varietyが9+(2)とrichの水準に達していることからも、じゅうぶんに変化と多様性に富んだ反応内容であるので、知識豊かで知的に優れた人であると思われる。反応内容に文学作品を絡めたものが2つ見られることにも、被験者の知的性格は表れている。また、アニメや映画のタイトルを、キャラクターやイメージの比喩として挙げている反応内容が5つあったことから、文化的教養はかなり高いとも鑑みられる。些細な言葉の使い方にも、社会的知的さは表れている。

知的側面と関連を持つW:Mの比は17:3となった。この比は、要求水準すなわち目標とするところと内的素質の差を示すと考えられており、17:3というと、なかなかに自分の知的能力以上のことを試みようとする野心家であると言える。(H+A):(Hd+Ad)は13:8であるので、外的事象を把握する統合力は高い。

情緒的側面をKlopfer et al.(1954)に従って、外的統御、内的統御、圧縮的あるいは抑圧的統御の三つに分けて考察すると、まず、外的統御についてはFC:(CF+C)=7:3なので、情緒的表現は社会的に洗練されていることがわかる。内的統御については、M反応は3であり、外面行動を調整するのに十分なだけ行為を統制し、情緒刺激への適切な対処を可能にする内的な資質はそこそこあると言えるが、非現実的な内容を持つ(H)や動物反応がやや優位となっていることから、内閉的で引っ込み思案な傾向も見られる。内的な創造活動や外的な刺激に対する反応性を抑え、自我を制限して現実に適応しようとする統御である圧縮的・抑圧的統御は、F%が43.4%であることより、現実を冷静かつ客観的に把握する能力を適度に持ちつつ、感情を表現したり自由な空想を楽しむこともある。

(FC+C+FC):(Fc+c+C’)=1:10より、被験者はテスト時に不安で、黒や灰色によって示されるような抑うつ的な気分にあったことが推測される。これは提出期限の近いレポートが書きあがらないといっていたのと関連があるのかもしれない。ただし、CF反応の内容からは、自由で快的な感情表現が見られる。この両方向性は、体験型において、外拡傾向と潜在的な内向傾向の葛藤があったことと一致する。被験者が、Most Like Cardとしてカードを選んだ際に、その理由を「楽しそう」であることや「この絵から物語を想起することができる」ことや「詩的な、神秘的で穏やかな世界が見える」ことに依ったのも、その内面的豊かさや文学的で知的な想像力を示唆しているようであるし、それに比べて、Self Cardを選ぶ際の「周りに点とかがなくて黒一色」で「あまり幅をとっていない感じ」を理由としてあげたことからは、自己に対してはシンプルなイメージを抱いているように思われる。