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【生涯学習概論】公民館、図書館、博物館の入館料について(費用と学習意欲)

社会教育を奨励するために国及び地方公共団体によって奨励されるべき社会教育を行う場として、日本ではおもに公民館、図書館、博物館の三つをあげることができる。

このうち、公民館については公民館における活動は無料で行われるのが当然の伝統、慣行であるように考えられていることが多い。図書館の入館料は、とりわけ公立図書館に関しては、無料である。戦前は「入館料をとり、書物を借りるのに料金が取られた」のが通常のことだったのだが、戦後、アメリカ教育使節団報告書において、住民が自由に制限なく図書館を利用し図書を借りることができるように「書物を調べたり借りたりするのに料金が課されてはならぬ。経費は政府が負担すべきである」と、無料開放、公費負担の図書館の設立が勧告された(1)。この原則が受け継がれた図書館法によって、現在は図書館では入館料無料の原則が定められている。博物館については、公立博物館は「入館料その他の博物館の利用に対する対価を徴収してはならない」と博物館法において規定されており、基本的には図書館と同様に無料を原則としているが、「ただし、博物館の維持運営のためにやむを得ない事情のある場合には、必要な対価を徴収することができる」として有料制を認めてもいる。しかし、どこでも「やむを得ない事情」があるとみえて、特別展示に限らず常設展でも入館料を徴収するのが一般的である(2)らしい。

このように従来社会教育では、利用者に費用を負担させないことが普通であった。ところが、臨時教育審議会の生涯学習論以来、民間活力・民間委託・受益者負担論等が強調されることによって、その伝統は揺らぎだしている。社会教育を有料にすべきだとする意見は、社会教育を高等学校・大学と比較し「高校・大学では授業料があり、一方、公民館無料を主張するということでは同じく「教育を受ける権利」を標榜しながら矛盾することになる」(3)という。これに対し『生涯学習の展開』の著者によれば「逆に公民館も無料だから高校・大学をも無料にすべきであると主張する方が、人類の歴史の流れにも叶い、憲法の人権保障の精神にも合致して、説得力があるといえよう」(3)ということであり、私もこの意見の方に賛成である。カルチャーセンターでみられる費用を負担したということによる学習意欲の高さをかんがみ、費用を負担しないことによって社会教育における学習者の意欲が高くならないのではないかという問題もあるが、これについては社会教育の基礎が一回限りのかけがえのない自己や人生を大切にし、それを一歩でも半歩でも充実向上させようとする態度を要求する自己教育力におかれている(4)ことから、そう懸念する必要はないだろう。

 

 

(引用文献)

  1. 吉冨啓一郎、国生寿編『生涯学習の展開』学文社、2000年、p.120。
  2. 同上、p.126。
  3. 同上、p.134。
  4. 同上、p.82。