哲学生の記録。

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【西洋文化史概説】アウトサイダーのスティグマ ―なぜ彼らは迫害されたのか―

0.はじめに 中世ヨーロッパでは、魔女や異端者として、非合理的に迫害された人たちがいた。しかし彼らが迫害されたのには、当時としては正当だと思われた理由があったのであり、そこにはなんらかの社会的、もしくは民衆心理的な動機があったに違いない。そ…

【西洋文化史概説】ミシェル・フーコー『狂気の歴史』の概要と書評

≪選択テーマ≫ 文化史の発展、あるいはそれに貢献した諸研究の書評。 ≪書名≫ ミシェル・フーコー著、田村俶訳、『狂気の歴史―古典主義時代における』新潮社、1975年。 ≪概要と構成≫ 1.『狂気の歴史』とは何か 『狂気の歴史』の主張とフーコーがこれを著した…

【東洋美術史】北宋と南宋の山水画

1.北宋の山水画 〜大地を正面から描く〜 北宋と南宋の山水画を比較すると、北宋の山水画には山や大地が主題として描かれていると言える。そしてその特徴は、正面性の強い構図だ。たとえば范寛の「谿山行旅図」では、かなり存在感を持った山が画面の中央に…

【東洋美術史】范寛の「谿山行旅図」について

范寛の「谿山行旅図」についてレポートする。この作品は北宋時代のもので、絹本墨画淡彩である。大きさは、縦206.3cm、横103.3cmと、なかなか大きい。 1.モチーフ まずぱっと見て何ともインパクトがあるのが、画面中央に堂々と描かれている重量感のある岩…

【臨床心理学実習】ロールシャッハレポート

テスト参加者は、22歳の大学生(女性)R.N.であった。検査者は21歳の大学生(女性)であり、テスト参加者との関係は、大学の学生寮で同じ階に住んでいる友人である。 反応総数Rは30なので、被験者は比較的検査に協力的で関心を持ち、検査者に対してあまり防…

【博物館実習】柳宗悦・民藝の美

1.民藝の性質・実用的で普通品 柳宗悦は、民衆的な工藝という意味で「民藝」という言葉をつくった。それは一般の人々が日常生活の中で使う器の中に美を見出すという思想だった。民藝の性質として柳は、実用的であることと普通品であることの二つを挙げてい…

【心理実験】記憶 ―自動再生法による系列位置効果―

目的 自由再生法の課題において、単語の呈示順序と再生率の関係を明らかにする。自由再生とは、相互に無関連な単語リストを覚え、できるだけ多くの単語を、単語の呈示順序に関係なく、思い出したものから順に再生することである。記憶には、呈示されたリスト…

【心理実験】対人行動  ―パーソナル・スペース―

目的 パーソナル・スペース(個人空間)とは、人間の身体のまわりをとりまく、見えない境界を持つ他人に侵入されたくない領域のことである。これは、我々はあまり他者と接近しすぎると不快や不安が高まり、他者を避けたり、他者との間にある程度の距離をとろ…

【心理実験】鏡映描写課題による両側性転移の検討

序論 タイプライターを打つ場合や自動車を運転する場合など、目、指、腕、脚など身体各部分の運動が一つのまとまりをもったものを運動技能と呼ぶ。したがって運動技能とは、感覚系と運動系との状況に即した密接な協応を必要とする行動であり、この協応関係が…

【哲学基礎演習】ソクラテスが死を恐れない理由

p.28(三) 哲学者は死を恐れない。死とは魂と肉体の分離であり、哲学者は魂そのものになること、すなわち、死ぬことの練習をしている者であるのだから 哲学者は死に臨んで恐れを抱くことなく、あの世で最大の善を得る希望に燃える。 哲学者は死ぬことと死ん…

【哲学基礎演習】『方法序説』第二部 デカルトが探求した方法の主たる規則

「たくさんの部品を寄せ集めて作り、いろいろな親方の手を通ってきた作品は、多くの場合、一人だけで苦労して作り上げた作品ほどの完成度が見られない」(p.20) 例) 一人の建築家が請け負って作りあげた建物と、古い壁を生かしながら修復につとめた建物 村…

【哲学基礎演習】ティム・クレイン『心は機械で作れるか』のまとめ

第1章「心はどのようにしてものを表象できるのか」 心的表象、あるものが別のものを表象するとはどういうことなのか。 中世・ルネサンス「生物的世界像」 ↓ 17C科学革命「機械的世界像」 ものが様々なふるまいをするのは、各々のものが自然法則にしたがって…

【哲学基礎演習】エラスムスの紹介

1.エラスムスとは まず、エラスムスというのがどのような人であったかというと、ルターはエラスムスのことを「彼はうなぎのような人間で、キリスト以外に彼をつかまえられる者はいない」と評しています。とらえ難い人であったようです。 彼は司祭の資格を…

【哲学基礎演習】上田閑照『私とは何か』の要旨と感想

1.自我の自意識から自覚への転換には、一種の目覚めを誘発する衝撃がある まず「自覚と自意識」の節について要旨をまとめる。 「我は我なり」と言いつつ「我」が開かれる場合の「我」を自己、「我」が閉ざされる場合の「我」を自我と呼ぶことにした。自己…

【哲学基礎演習】神と言葉について

1.ヨハネ福音書1章1節「初めに言があった」 講義資料より、新約聖書の「ヨハネ福音書」1章1節には「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は、初めに神と共にあった。万物は言によって成った。成ったもので、言によらずに成ったも…

【哲学基礎演習】魂の不死の証明(ソクラテス「哲学者は死を恐れない」)

1.魂は死んでも消えない プラトンの『パイドン』の中で、ソクラテスは「知恵を愛する哲学する人は、死にむかって恐れることはない」という。哲学することとは、肉体にまつわる快楽から離れ、魂の状態に近づいて知恵を目指すものであり、死こそはまさに肉体…

【博物館実習】博物館学芸員の資格について

私が博物館学芸員の資格取得を目指しているのは、博物館という場所が好きであり、そこでできることに大きな可能性を見るからである。博物館では、物が大切にされている。私は物を大切にするのが好きなので、物が大切にされている場所は心地よく感じる。そし…

【民俗学】伝統食について

主食のタロイモを手放したハワイの先住民の心臓病罹患率は、米国平均の2倍、糖尿病は7倍だという。日本の場合も、世界一の長寿を実現した理由は何であったのかと考えると、それは医療技術の進歩のためだけではなく、魚と大豆と米を中心にした伝統食の要因も…

【西洋近世哲学史】カント『純粋理性批判』におけるカテゴリーの客観的妥当性について

1.哲学することと、哲学を研究すること 哲学することは自己探求することであり、対自的に思惟することである。哲学を研究することと哲学することの間には大きな隔たりがある。というのも、哲学することは自らの身をもってそのように生きることだからである…

【西洋近世哲学史】デカルトの方法的懐疑から(思惟の傾向と存在への希望)

1.何もかもが疑わしい(日常生活は別として) デカルトの方法的懐疑は、疑えないものを見つけるためにあらゆるものを疑ってかかるという姿勢だ。デカルトがしたかったことは疑えないものを見つけることであったために、少しでも疑わしいことは、すべて虚偽…

【宗教哲学】カント『純粋理性批判』(挑戦の軌跡)

1.はじめに言い訳(よくわからなかったけど、がんばって解釈してまとめてみたよ) 私は、カントの『純粋理性批判』についてレポートを書く。とはいえ『純粋理性批判』を読んでみてわかったことは、この著作は私の歯がそう簡単に立つような代物ではなかった…

【宗教哲学】理性と信仰(共になくてはならぬもの)

1.哲学は理性を、宗教は信仰を 哲学は理性を、そして宗教は信仰を、それぞれの心的活動を行ううえでのよりどころにしている。このことをP.Tillichは「哲学は根底から問うという姿勢、すなわち、問うということに関しても問うような姿勢であり、また、すべ…

【英書講読】芸術作品に対する感受性は教育を必要とするか

1.感受するとはどういうことか 芸術作品に対する感受性は教育を必要とするのか。感受性とは『広辞苑(第五版)』によると「外界の印象を受け入れる能力。ものを感じ取る力。感性」のことである。なので、芸術作品に対する感受性というのは、芸術作品に接し…

【英書講読】応用倫理の特徴

1.応用倫理とは 応用倫理は、具体的で議論の余地のある道徳的問題(例:妊娠中絶、動物の権利、安楽死など)の分析からなる倫理の分野だ。 近年、応用倫理の問題は、手頃なグループへと再分化した。 →医療倫理、企業倫理、環境倫理、性倫理など。 一般的に…

【人文演習】カウンセリング技法について(心の問題の解決とは何か)

1.カウンセリングは心の問題を解決するか 大学が用意している「カウンセラー」という人のもとに行ったことが、一度だけある。相談内容は「おやつを食べるのがやめられない」というものだった。冗談ではない。真剣に悩んでいた。その真剣の悩んでいた折に、…

【人文演習】人間のユニークさ

1.はじめに 幸福論を追っていったら「人間とは…」という論点があまりにも多いことに驚いた。それは、人間には「子孫を残す」ということ以外に何かこの世に生を受けた目的があるはずで、その目的に沿ってことこそが人間の幸福なのだという考え方だ。 2.人…

【英書講読】「嘘も方便」は道徳的に許されるのか

1.「嘘をついてはいけない」のか「嘘も方便」なのか 小学校もしくはもっと幼い頃から、わたしは「嘘をついてはいけない」ということをわかっていた。おそらく、初めてついた嘘がばれて「嘘をついてはいけないでしょう」と怒られるよりも以前にわかっていた…

【発達と学習の心理学】学校への携帯電話持ち込みについて

1.非常時に備え、持ち込みは許可 私は児童が学校へ携帯電話を持ち込むことに関して、持ち込みは許可すべきであるが、非常時以外は登下校中や校舎内では電源を切っておくよう義務付けるのが良いと考える。 なぜ持ち込みを許可すべきかというと、それは携帯…

【哲学基礎演習】カント『純粋理性批判』岩波文庫第二版(1786年)序文要訳

理性の営みに属するところの認識を取り扱う仕方について、学として確実な道を歩ませる。 論理学は学として確実な道を歩んできたが、というのも論理学が認識の対象とその差別とを度外視する権限を持っているからであり、それによって論理学において悟性は悟性…

【宗教哲学】西田幾多郎という人「学問は畢竟lifeの為なり」

1.枯れ草を食む彼の文章は(西田幾多郎という人) 西田幾多郎は『善の研究』の序文の終りにゲーテの「ファウスト」よりメフィストの言葉を引用する。「思索などする奴は緑の野にあって枯れ草を食う動物のごとし」(1)。それは病かはたまた罰か。西田は「…